居住用不動産を売却したときに売却損が出た場合に知っておきたい2つの特例
前回はマイホームを売却したときに売却益が出た場合の以下の特例3つを解説しました。
- 3,000万円特別控除
- 10年超所有軽減税率の特例
- 特定居住用財産の買換え特例
一方、売却損が出た場合には税金は発生しませんが、損失を給与所得や不動産所得等の他の所得と相殺することで税金が安くなる特例があります。
そこで今回は、居住用不動産を売却したときに売却損が出た場合に知っておきたい以下の2つの特例について解説いたします。
1.居住用財産の買換えに係る譲渡損失の損益通算及び繰越控除の特例
2.特定居住用財産の譲渡損失の損益通算及び繰越控除の特例
1.居住用財産の買換えに係る譲渡損失の損益通算及び繰越控除の特例
「居住用財産の買換え等の場合の譲渡損失の損益通算及び繰越控除」とは、5年を超えて保有する居住用不動産を売却して、新しく居住用の不動産に買い換える場合は、上記の「居住用財産の譲渡損失の損益通算及び繰越控除」を利用して税金面で優遇するというものです。
この場合、不動産を売却することにより損失(赤字)が出ても、売却損をその年の他の所得と損益通算することができ、また、損益通算してもなお赤字となった金額については、翌年以降3年間繰り越してその年の所得から控除できます。
例えば、サラリーマンなどの給与所得者の場合、給与から毎月一定額の所得税が天引き(源泉徴収)されています。この給与所得と買い換えのときに生じた譲渡損失を相殺(損益通算)することで、給与所得で天引きされていた所得税が還付されることになります。
例えば、給与所得が600万円のAさんが、売却により譲渡損失▲1,000万円が生じた場合、Aさんは損益通算により、Aさんのその年の所得は▲400万円(=600万円―1,000万円)となります。
Aさんが勤める会社は年収600万円を元に税金を天引きしていますが、実際の所得は▲400万円だったため、年収600万円を前提に払っていた税金は払い過ぎていたということになります。
したがって、確定申告することにより特例を適用することで払い過ぎていた税金が還付されることになります。
この特例を適用する条件として、まず居住用の不動産でなければなりません。従ってオフィスビル等の事業用不動産を買い換えても適用はありません。
また、その不動産に住まなくなり、空き家となっている場合でも、住まなくなった日から3年目の年末までに売却すれば特例の適用が認められます。
また、他にも以下の条件があります。
・買い換え資産(新居)の住宅ローン(償還期間10年以上)があること
・買い換える建物の床面積が50㎡以上のものであること
・売却の年の前年から翌年までの3年の間に買い換えること
また、この制度は売却した前年、前々年に以下の特例を受けた場合には適用することができません。
- 3,000万円特別控除
- 10年超所有軽減税率の特例
- 特定居住用財産の買換え特例
- 居住用財産の買換え等の場合の譲渡損失の損益通算及び繰越控除
- 特定居住用財産の譲渡損失の損益通算及び繰越控除
を受けていないことが条件となります。その他、親子間や夫婦間で不動産を売買した場合にも同様に適用することはできません。
2.特定居住用財産の譲渡損失の損益通算及び繰越控除の特例
「特定居住用財産の譲渡損失の損益通算及び繰越控除」は、5年を超えて保有する居住用の不動産を売却して、新しく居住用の不動産に買い換えるのではなく、譲渡契約を締結した日の前日時点で「譲渡資産」の住宅ローン(償還期間10年以上)があることです。
「1.居住用財産の買換えに係る譲渡損失の損益通算及び繰越控除の特例」との違いは、買い換えが有ったか無かったかの違いとなります。
不動産を売却して損失が出た場合、売却損をその年の他の所得と損益通算でき、損益通算しても赤字となった金額については、翌年以降3年間繰り越して所得から控除できます。
ただし、譲渡損失の内、以下のいずれか少ない金額について損益通算できます。
・譲渡した居住用財産の譲渡損失額
・譲渡した居住用財産にかかる住宅ローン残高から売却価額を控除した残額
例えば以下の場合
- 譲渡損失の額:3,000万円
- 譲渡した不動産の売却価額:4,000万円
- 住宅ローン残高:5,000万円
この場合、譲渡損失3,000万円が損益通算の対象になるのではなく、住宅ローン残高5,000万円から売却価額4,000万円を引いた残額1,000万円が損益通算の対象になります。
要は、まだローンが残っているのに損失が3,000万円も発生して残念だろうけど、手元には売却して得た金額が4,000万円残っているから、それでローンを返済した残り1,000万円だけは損益通算を認めますよ、という制度になっています。
従って、売却して得た金額でローンを完済できる場合には損益通算することはできないことになります。
この特例を適用する条件は、上記「1.居住用財産の買換えに係る譲渡損失の損益通算及び繰越控除の特例」と同様で、居住用不動産であること及び、住まなくなった場合でも、その日から3年目の年末までに売れば特例の適用が認められます。
さらに、同様に、売却した前年、前々年に以下の特例を受けた場合には適用することができません。
- 3,000万円特別控除
- 10年超所有軽減税率の特例
- 特定居住用財産の買換え特例
- 居住用財産の買換え等の場合の譲渡損失の損益通算及び繰越控除
- 特定居住用財産の譲渡損失の損益通算及び繰越控除
を受けていないことが条件となります。その他、親子間や夫婦間で不動産を売買した場合にも同様に適用することはできません。
またこの特例を受けるためには、確定申告をしなければなりません。
3.まとめ
今回は居住用不動産を売却したとき売却損が発生した場合の特例を2つ紹介しました。どちらも似たような制度ですが、2つの制度の大きな違いは、「買い換え」があるかどうかです。
買い換えがあれば、買い換えた(新居の)不動産に10年以上の住宅ローンがあるか、買換えがない場合、売却する不動産に10年以上の住宅ローンが残っているかということです。
以上、マイホームなどの居住用不動産を売却したとき、損失となった場合は住宅ローンと併用することにより、税金面で優遇措置が設けられています。
逆に売却益で出た場合には以下の3つの特例が認められていますが、住宅ローンとの併用は認められていません。
- 3,000万円特別控除
- 10年超所有軽減税率の特例
- 特定居住用財産の買換え特例
要は、売却益も出ているし、これだけ優遇しているから住宅ローンが残っていても返済できますよね、ということでしょう。
居住用不動産の譲渡については、売却益となっても売却損となっても、かなりの優遇措置が取られていることがわかると思います。しかし、かなり細かい適用要件もあいますので、実際に適用できるかどうかは、税務署又は税理士に相談するようにしてください。
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